2005年05月15日
OCWの意味
[eラーニング ]
大阪大学、京都大学、慶応義塾大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学でMITのOCWに準拠し、教材を公開している。
さて、この件はいろいろと意見を集めているようなので、まとめてみよう。
国内有名6大学の教材を無償で公開--受験に合格しなくても学べる? - CNET Japan
まずは、ESCAPEBLOGさんのように
個人学習向け教材としては、無料と破格!?がんばれば十分学べそうですし、いろいろな事情で大学に行けなかった人々にはチャンス?
というように、フリーというところを強調する意見が見うけられた。確かに、この面は強く感じる。
CNETでは、「OCWはいわば大学の講義教材のオープンソース化である。」と位置づけている。また、タイトルには、受験に合格しなくても学べる?と書かれているように、「知的資産がどこに属するのか?」という問いに、「大学」という答えを出されていることを暗示しているようだ。これは、人々の間に、「大学に入らなければ学べない」という幻想があることの裏返しのような気がする。
例えば、大学でしか学べない事というのはどのようなことだろうか。有名教授の授業であれば、講演会などに行くことである程度学べるだろう。それ以上に、その人が書いた論文や書籍をすべて読めば、授業では計り知れないほどの知識を得られる。書籍の値段など、大学の授業料に比べれば、微々たる物である。また、基本的に論文は公開されているのである。つまり、現状でも知識はほぼ無料に近い形で得ることができるのだ。
確かに、焦燥/疾走さんのように、
まだ講義をつらつらと眺めただけれど、講義やリーディングリストがあるだけでも貴重。blogが流行ってもどういった所を自分が訪問しているかと言えば、やはり内田さんや稲葉さんのとこや、切込隊長やR30さんのところ。つまりある事象に対して鋭い分析を加えていて、知的興奮が味わえるところ。そしてなんだかんだいって、大学教授の書く文章って面白いのだ。彼らが持つ知的資産はやはり価値がある。それが無償で、整理された形で提供されるのならこんなに嬉しいことは無い。
中略
ともかく、知的資産が更にオープンになり、もっと多くの人がそれをこねくりまわしたり、新たな創造を図ったり、そして自分もそこに少しでも貢献できればと改めて思うのだった。
と述べられているように、ネット上に公開されることにより、圧倒的にアクセスは容易になる。この面は、否定できない価値となるだろう。
また、公共政策大学院生の蹇蹇録
これからは受験生なんかは進学希望先の講義内容とかをしっかりチェックできるし、講義名と講義内容のギャップの大きさに落胆する、という機会も少なくなるかも。僕もこれによってこの大学院の講義内容とかチェックできたし。
大学に在籍していない人間も自由に閲覧することができる。
他の大学の学生や、受験勉強中の高校生など。
というように、授業を先に選択できるというような意味を捉えている方もいる。この点は、日本の大学が、授業を選択することに対して、ルーズすぎる点が上げられる。ほとんどの場合は、選択するというよりも仕方なく選んでいくというような選択しか許されていないことが多い。(シラバスがしっかりしていない。授業の選択をキャンセルできないなど)その意味では、確かに選択の幅を広げることになるだろう。
また、舟木 将彦氏
まず、公開する側の大学教官には、(学生と教官の双方がナメきっている)一般教養の授業内容が、次に伝えようとする専門に向けて、しっかり導入の役割を果たすような内容になるよう、努力してほしい。その上で、自らの専門に関しては、多くの人の興味を掻き立てるようなものを準備してほしい。
また、つやぷlog
まあ無いわけではないだろうけど、そもそもWebで公開可能なプレゼン資料っぽいものを作ってるセンセイはどの程度いるんだろう。少なくとも俺の経験では・・・一人でもいたかなあ。思い出せない。Office系アプリケーションのリテラシも平均的社会人より低いと思うし・・・資料作成を強制にしたら、助手とかに負荷がかかりそう。
というような形で、先生に対して期待をしていることがあげられる。確かにネット上に公開するとなれば、下手な講義はできない。また、若手であれば、授業を公開することで、自分の名前を売ることができるかもしれない。
このへんについては、 以前、早稲田大学の向後先生が、
授業を公開することは、自然な形でのFDになる
とおっしゃっていたことを思い出す。FD:faculty development
以上のように、ブログ界隈からは、大別すると上記3点のような反応が多く見受けられた。
では、OCWという取り組みは、この3点が重要なことなのだろうか。また、その利点は何があるのだろうか。考えていきたい。しかしながら、私自身、これに答えを持ち合わせていない。(この答えが導き出せたら、アカデミックな世界で生きていくことを考えようと思う)
情報をオープンにすることから発展する爆発的な知の広がり。それらが意味するものの本質は何になるのかがよくつかめていないのだ。短期的には、良質なコンテンツがフリーで流れることにより、劣悪なコンテンツは駆逐されていくだろう。しかし、良質だからといって、最高であるわけではない。
現在では、最高を作り出そうとするモチベーションは、個人の業績に密接にリンクし、それは概ね、お金に帰着している。「よりよいものを、よりよいものを」を作ろうとする愚直なまでの集中力を単に学術のためだけに追及できる人もいる。しかし、すべての人にそれを求めるのは酷だ。
たいていの人は、学術的なことをしながら、どうやって食べていくのかを真剣に考えている。その人たちにとって、オープンにコンテンツが流れることはどのような意味があるのだろうか。前述した名前を売るというだけのものなのだろうか。
ちょっとすぐに答えは見つかりそうにないので、梅田 望夫氏を引用して終わろう。
ただ、せっかくの新しい試みに水を差すのも何だが、本家であるMITオープンコースウェア自身の「勢い」は、構想をぶち上げた時点に比べて明らかに落ちているように思う。大学に限らず、既存組織内で閉じていた情報をオープンにするという試みは、よほどの狂気がないと長続きしない。
(1)オンラインコミュニティの発展、(2)ビデオ教材の充実、の2つが極めて重要と書いたが、結局はこの2つの課題は完全に停滞状態にある。「形だけ情報をオープンにすればいいな」という程度の方向が目指されており、「何としてもその情報を世界中の必要とする人たちと共有するのだ、そのためには徹底的に改善し続けていく、結果として大学という組織の姿が大きく変わっていってしまったって構わない」という「本物の狂気」がないから停滞するのである。
公開から2年以上経つMITのOCWのサイトには、1100の講義情報があり1日に2万ものユーザーが訪れるという。が、「1日2万人」の訪問者じゃしょうがないだろう。普及という意味では失敗だし、「形だけやっている」という自己満足に過ぎない。せっかくの試みなのに本当に残念である。逆に「MITにしてこの程度か」と感慨も深い。
非常に手厳しい。しかし、インターネットの世界のベンチャー企業(yahoo,google,apple,MS)などが作り出したスピード感から比較すると遅いといわざるを得ないし、イノベーションへの志向も弱い気がする。自らも、同じ世界に属し、なんらかの解決策を模索しているからこそ、なんとなくもどかしい。
PS:中原先生お疲れ様でした。先生なら、きっと何らかの答えをお持ちなのではないかと思っています。
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コメント
1. 投稿者 nori : 2005年05月15日 11:04[RES]
TBありがとうございます。個人的には、資料などが整理された形で並んでいるだけで勉強になると感じます。けれど、それが社会的に大きな意味を持つには、確かに梅田氏指摘するように何らかのコミュニティが生まれてくる必要はあるかと。ただ、そういった方向性を日本の大学が主導できるかというと確かにちょっと難しい気が。。
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