2007年05月11日
転職と成金
[人材育成 ]
ある会社に、どんなに火を噴いたプロジェクトであっても、必ず解決してしまうスーパーマンがいた。業界他社は、彼の存在が疎ましくて仕方がなかった。なぜなら、彼は、特に変わった才能や専門性があるわけではなく、周りからすればなぜだかわからないがプロジェクトを成功に導いてしまうからだ。
決して、超絶なテクニックがあるわけでもなく、必殺技のようなものをもっているわけでもなかった。強いて言えば、フットワークが軽く、チョコチョコと動くことが出来る人間であった。人は彼のことを金をつれてくる人間ということ、まさに社長の右腕だったことから将棋にたとえて金将と呼んでいた。
あまりに不思議なことばかりが続くので、ある業界他社のH社が彼に触手を伸ばした。
曰く、
「うちに来てもっとエキサイティングな仕事をしないかい。うちなら常にやりがいのある仕事を提供するよ。ついでに今までより、3倍の給料を払うから…」
彼はしばし考えたが、自分がステップアップしてきたキャリアを振り返り、そろそろ次のステージに上がるときかなと考え転職を決意した。
それまでの彼は、まさに一歩一歩前進し続ける形で成長をしていった。ある会社は、決して派手なことをするわけではないが、着実な仕事振りで有名であった。特に、派手でないが故に、エリート意識の強い人間が入社することなどまずなく、会社ではせっかく入ってくれた社員を大切に、時に戦場で修羅場をくぐらせ、ケアし、適材適所で育ててきた。彼もはじめは目立った人材ではなかったが、あるときから水を得た魚のように、急激な成長を遂げたのだった。
スーパーマンを手に入れたH社では、彼が今後同社に爆発的な成長をもたらしてくれると期待しており、公約どおりチャレンジングな仕事につけることを考えていた。即戦力として最前線に配置するべく、事務的な手続きを急ピッチで進め、入社3日目から文字通り最前線に配置された。
しかし、彼は誰もが望んでいたような働きが出来なかった。むしろ、全く動くことが出来なかったのだ。H社の人間もなにが起きているのかわからなかったし、一番は彼自身が何が起きているのかわからなかった。
彼は、H社を早々に退職した。彼のその後を知る人はいない。
そんな中、彼がなぜ動けなかったのかを見抜いていた人がいた。彼の前職、ある会社の社長だ。
「みな、彼を金将だといったが、もともとの彼はそんな高尚な人物ではなかったな。彼は、歩兵に過ぎなかったんだよ。でも、歩兵でも鍛え方次第で金になることが出来たんだ。そのまま、うちにいたら金のままでいられたのに、彼はもったいないことをしたな。自分もかなり説得したが、人間ちょっと自信がつくと人の話は聞けなくなってしまうものなんだな。残念だよ」
「それにしても、H社の人間はバカばっかだよ。金だと思って最前線に置くなんてのは、何にも考えていない証拠だよな。歩兵を最前線に置くのは反則なんだ。金将か歩兵か、もしかしたら桂馬か香車の可能性を考えて配置すりゃいいんだよ。要するに、一歩、余裕を持ってやりゃあ、彼だったまた金に成れたのによ。」
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