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人材育成を研究している橋本諭のブログです。eラーニング(e-Learning)や人材育成、インストラクショナルデザインを専門としており、教育工学、学習科学、OJT、ワークプレイスラーニングの研究しています。eラーニング専門家のためのインストラクショナルデザイン、企業内人材育成入門を上梓。

2006年12月07日

人材育成を科学しよう

[ワークプレイスラーニング , 学習戦略 , 人材育成 ]

芦屋広太氏の芦屋広太 ひとつ上のヒューマンマネジメント : 5分で人を育てる技術 (5)言うことを聞かない“自信過剰な部下”が注目を集めている。いわゆる、炎上という形だ。

氏の主張は、言うことを聞かない部下「坂本君」をどうにかして育てて行こうという中で、上司と結託して坂本君を徹底的に追い込む(これは、いじめです)ことで、矯正するというもの。

芦屋:どうした坂本,次長,部長はOKか。

坂本:・・・

芦屋:なんか問題あったのか?

坂本:次長も,部長も「こんなのわからん」と怒ってしまいました。お前の話は聞かないと言われました。

芦屋:ふーん,そうなの。なんて言われたの?

坂本:・・・二人とも芦屋さんと同じこと言ってました。

芦屋:へえ・・・奇遇だね。それで,修正して説明したの?

坂本:はい・・・でも,何回もっていってもOKでないんです。

芦屋:そうか,大変だな。

坂本:最後には,芦屋に見てもらわないと,俺たちは見ないと言われました。

芦屋:ふーん。でも,お前,俺の言うことは聞かないじゃん。言うこと聞けないヤツに指導する気はないよ。

坂本:いや,お願いしたいのですが・・・

芦屋:勘弁してよ。

坂本:・・・

芦屋:分かった。上手くいくか分からないけど,俺の言うように修正してみようか。それで,二人で次長と部長に説明しよう。

 こんな感じで,坂本に資料を修正させました。そして,次長と部長に資料見せると,一発でOKがでたのです。すっかり意気消沈していた坂本は,嬉しそうに笑顔になりました。ほっとしたのでしょう。生意気な坂本の表情はありませんでした。

 これ以降,坂本は私の言うことを何でも聞くようになりました。あんなに生意気だった坂本が,なぜ,芦屋の言うことをハイハイ聞くのか,周囲は不思議がりました。

 それは,私が,そういう工夫をしたからです。次長と部長には「口裏を合わせて」おきました。坂本に絶対OKを出さないようにお願いしていたのです。非常にみえみえの仕掛けなのですが,この方法はよく効きます。

こんな手法は、誰が見ても、よく効くのは明らかだ。

「あいつ、うるさかったから殴ったんだ。そしたら、静かになったんだよ。何で、他のやつらはうるさいやつを殴らないのかわからないなあ」というジャイアンと同じ論理構成に他ならないことは明らかだろう。

もちろん、ここに書かれている内容は、炎上して当然というレベルのものであり、芦屋氏自身も相当「狙って」きていることが予想される。しかし、ここで注目してほしいのは、この記事に対する反応だ。

まずは、アプレッソのCTO小野和俊のブログ、小野和俊のブログ:ふたつ下のヒューマンマネジメント:5分で人をダメにする技術 - 優秀な部下の能力の芽を摘み取る無能な上司から


上記の記事は、頭は良いが自分の言うことを聞いてくれない部下を、無能な上司が周囲にネチネチと根回しして物言わぬ奴隷としてこき使っていくためにはどのような小賢しくて汚いテクニックがあるのかを、「マネジメントのプロ」がニヤニヤしながらケーススタディを用いて解説する極めて醜悪で下品な最低の記事である。やや過激な言い方ではあるが、少なくとも私は、そこまで書いても書き足りないくらいの生理的嫌悪感を感じる。

次に、天才的なプログラマとして有名な小飼弾氏のブログ404 Blog Not Found:人を育てられると思ったら負けだと思っているから。


人は育てるものではない。育つものである。その業種における育ち方、あるいは自分の育て方を会得できない者は、残念ながら上司や会社がいくら頑張ってもムリである。

中略

上司が部下より偉いたった一つの理由は、仕事がうまく行かなかった時には上司の責任であるということである。だから、部下に対する上司の仕事も、たった一つしかない。あなたの部下がうまく行かなかった時に、責任をとる。それだけだ。

そこさえ間違えなければ、どんな部下でもあなたを信頼するようになる。育てば育つほど、いかに他人の責任をとることが難しいかというのはいやがおうでも覚えるようになるのだから。

ところで、日本の会社の人事というのは、こんな「部下いびり」メソッドばかり流行っているののだろうか?これでは競争力が落ちるのも無理はないと言わざるを得ない。あなたが部下をいびっているその瞬間にも、競合相手はその時間でもっといい提案を用意しているはずなのだ。

また、部下の方も部下の方で、上司や先輩に育ててもらうと思ってやしないか?育つのはあなたなのである。他の誰でもないのである。今や会社に育てもらうなどというオコチャマ社員に捨て扶持を食わせるほど余裕のある会社などないと知るべきである。

会社に育ててもらうほど、あなたの人生は長くないのだから。

芦屋氏の記事からの反応は、この代表的な2つの記事が表していると思う。もちろん、はてなブックマーク - 芦屋広太 ひとつ上のヒューマンマネジメント : 5分で人を育てる技術 (5)言うことを聞かない“自信過剰な部下”も同様だ。

芦屋氏の視点に対し、小野氏のように「人材育成とはそういうものではない」という基本的な反応がベースにあり、小飼氏のように「こうやるべきだ」という意見に向かう。あと数日は、色々な意見が出ると思うが、基本的な反応には大きな違いはなく、小飼氏のように持論を述べるのかどうかが違いとなっている。今回の注目点のひとつは、芦屋氏の意見そのものだが、それ以上に注目すべきポイントが、この持論という箇所だ。

それは、芦屋氏の意見も小飼氏の意見も、意見に相違はあれどもそれぞれ自らの経験に基づいた持論に他ならないことにある。

持論が悪いといっているわけではない。しかし、持論だけに頼ることは危険だと思っている。芦屋氏の方法がいいという人もいれば、小飼氏の方法がいいという人もいる。もちろん、どちらとも合わない人もいる。どんなにその人の中では結果を残した手法であっても、あくまでその人の持論に過ぎず、一般化に耐えうるかどうかは全くの未知数であるからだ。(*)

1年半前、企業内人材育成入門の執筆が始まった際に、執筆チーム内でテーマとなっていたのが、この人材育成に対する持論についてだった。


「仕事は現場で覚えるもの…」「そんな教え方じゃ…」「この研修って役に立つの…」。教育や学習に関しては、誰もが一家言持っている。それは、各人の経験に基づいた、いわば「私の教育論」である。しかし、企業全体の教育システムを考えるとき、「私の教育論」はともすれば弊害をもたらしかねない。私にとってうまくいった方法が、必ずしも他のケースでうまくいくとは限らないからである。「人材育成」に関するさまざまな知恵を俯瞰的に学ぶことの意味がここにある。本書では、人材育成に関する心理学・教育学・経営学等の基礎理論を簡潔に紹介することを目的にしている。人が学び、人が育つ理論に関して、より深い理解が得られるはずである。

本書を執筆している当初、この意味がよくわからなかった。しかし、自分自身が社会人として働き出したこと、今回のようなエントリーがあることでその意味がよくわかってきた。

「とりあえず、売れっりゃあいいんだよ」が通用するんだったらマーケティングはいらないし、「金で人はついてくる」が通用するんだったらマネジメントはいらない。これらの分野については、かなり科学的なアプローチが認知されてきたと思う。しかし、人材育成に関してはまだまだ持論”のみ”がまかり通っているように感じる。

確かに、数学などのようにキレイな答えは出てこない分野である。しかし、人材育成に科学がないわけではないし、一般化に耐えうる理論を構築する研究は日々行われている。

繰り返しになるが、持論が悪いといっているわけではない。持論だけで議論が終始してしまうことは憂慮すべきだと思っている。先人が落ちた穴に落ちないこと、先人の知恵を生かすこと。科学にはこんな精神があると思う。

人材育成にも科学を持ち込むこと。そしてそれが効果的だと認めてもらうこと。これが、今の自分自身への課題だと痛感した。

* ここでは、文意と異なるため、適正処遇交互作用の話はしません

投稿者 橋本 諭 : 2006年12月07日 23:32 このエントリーを含むはてなブックマークはてなブックマークへ追加

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